それは、梅子が昼休みに教えてくれなかったK部の真実だった。
この・・・・この人並み外れた闘いが?
再び、外の闘いに目を向ける。
白華は空中に氷の刃を創り、そのうちの数本を青年めがけて放つ。
青年は余裕をもってかわし、しかも青年の体に掠ったように見えても、その刃は体に触れる前に溶けてしまう。
しかし、一段と太い刃が時間差で襲ってきたので(しかも顔面に)一瞬、反応が遅れて体を右斜め後ろに逸らした。
その瞬間を、白華は見逃さなかった。
足に力を込めて、大地を蹴って跳び、剣を突き刺すように前に出す。
普通の高校生は地面を蹴って飛び込むなんてしない。
ましてや、10mも地に足を着けずに跳躍するなど有り得ない。
アクション映画が嘘のように思えた。
だって、目の前で起こっているそれには何も理由がない。ワイヤーも何も見当たらない。
つまり、白華自身の力でなければできない。
何だろう・・・怖い?
自分の体から湧き上がる“動き”が分からなかった。
白華は青年との距離を一瞬で縮めて、確実に殺すために心臓を狙って剣を伸ばす。
青年は、寸でのところで剣をかわし・・・たかと思ったがふらついたロスもあってか、心臓の上、左の肩にざしゅっ、と肉を裂く音と共に赤い血飛沫が飛ぶ。
そのまま下に剣を下ろして、肩から削ぎ落としてやろうと試みたが、いつの間にか伸びた爪、しかも祐に15cmはあろう爪で青年は剣を押し返していた。
力比べでできることは知れている。素早く思考を切り替えた白華が足を青年の腹にまっすぐぶちこんだ。
文字通り体をくの字にした青年が7mは吹っ飛んだ。あの白く細い脚のどこにそんな力があるのだろう。
バック転をして片膝をついて体制を立て直す。
「う〜〜けほっ、あいかーらず遠慮ないなぁ・・・白華は。」
そういうところも好きなんやけど、と腹を押さえながら立ち上がる。
「ちっ、貴様に遠慮して何の得がある。」
「おっ、俺らの関係に遠慮はいらんてか?嬉しいこと言うてくれるやーん!」
「気色の悪いことをほざくな。」
はいはい、と気のない返事をした青年をよそに、白華は剣を肩の高さにまえ並べて集中する。
剣の切っ先は青年に向けられている。
「白華・・・。」
なぜ、白華は闘っている?
あんな力は知らない・・・危ない・・・怪我したら・・・あんな力を持つ青年と白華がどうして闘わなくてはならない?
怪我をしたら危ない、死んじゃうかもしれない。死ぬ・・・?父さん、母さん。
白華がまた消える・・・?
そんなの嫌だ。絶対に、駄目だ。
「白華!!」
気がつけば大声で白華を呼んでいた。
白華の耳にも届く、十分な大きさだった。
無論、それは青年の耳にも届く。ゆっくりと白華の剣から視線を外し・・・にやり、と笑った。
「!!深祈!守りを固めろ!!」
「は、はいっ!」
白華が叫ぶと同時に青年は地を蹴り駆け出していた。
言われたとおり、深祈は再びドームをたぷん、と波打たせると水の厚さが増した。
「(やらせない!!)」
白華も深祈の元へ駆け出す。
スピードなら白華は誰にも負けない自信があった。何度も繰り返してきた戦闘で、青年もそのことは分かっていた。
秋一は叫んでからしまった、と思ったが迫りくる青年からは目を逸らすことができなかった。
いつの間にか、犬歯までが伸び、既に犬歯とは呼べず、牙になったそれを剥き出しにして青年は口を開いた。
何をするのかと思えば、どういう原理か知らないがその口から炎が発せられたのだ。
大きな火球が、こちらへと向かってくる。
「ゎっ!」
「大丈夫です!火と水の力は互角!あの程度ならドームにかき消されて終わりです!!」
深祈の言うとおりだった。
ぶがつく厚さで構成されたドームに火球はぶつかり、水の力によってかき消され、多量の蒸気が広がった。
蒸気が晴れてくると、ドームの目の前で白華と青年が刃を交えていた。
正確に言うと、白華の剣と青年の爪だ。
「・・・・・・狙いは私だろう。外野に手を出すのは野暮なんじゃいないか?」
「へへっ、嬉しいけどなー、ちゃうねんて。狙っとんやなくて白華のこと好きなだけやさかい、他はどーでもえぇし。それにしても癪やな〜。」
青年がドームに、いや、秋一に目だけ向ける。
日本人では有り得ない、金色に光る青年の瞳と目が合ってしまう。
「俺と白華との愛の闘いとこいつは横からちゃちゃ入れたんや。ムカつくわぁ〜。」
「誰が愛だ。だからお前は最初に殺す。」
「殺生な〜。じゃあ、俺はあいつ殺すわ。」
青年が白華に視線を戻し、見つめ合う。
ロマンチックなそれではなくて、命のやり取りの間で行われるにらみ合いだ。
ふいに、青年が首だけ器用に動かした。
秋一は目を見張る。
青年は何の躊躇いも無く、白華の唇に自分の同じそれを重ねたのだ。
「っく、この!」
一瞬で体を引き、剣で青年の手を薙ぎ払って、更に脚で薙ぐ。
力を流すように、後ろに体を引いて距離をとった。
「よっしゃ!まさにゲっちゅうってカンジやなぁ♪」
「殺す。」
白華は今まで以上に集中するために再び、剣を肩の高さに並べた。
その姿に、青年は構え、隙を狙っているようだが、頬を撫ぜる冷気に、いや殺気にどこへつけこめばいいと言うのだ?
額の紋章が輝きを増し、風もないのに髪やスカートが揺らめき、病的に白い脚がのぞいた。
着々と自分を殺す手段が考えられていると思うと冷や汗が流れる。
だが。
「きゃあっ!」
「っ、深祈!?」
深祈の悲鳴を聞いた白華は慌てて振り返る。
今、敵はあいてしかいない筈・・・!
焦りを胸に、振り返ったそこに、深祈hがうつ伏せに倒れていた。
彼女の力で創り上げたドームは消え去り、そこには・・・・・・――――――――――炎の柱があった。
秋一がいた筈の場所だった。