「深祈、ありがとう。助かった。」

白華が当たり前のように、深祈に感謝の言葉を述べた。

「いえ、急だったんで薄いままです・・・。・・・・・・・・・“青零”」

せいれい?

何だ?何だこれは?分からない。分からない分からない分からない。

状況についていけない。

“青零”と呟いた深祈の額に青い紋章が浮かび、たぷん、と水のドームが波打った。より厚さを増したようだった。

「何やぁ、青零ちゃんもおったんかいな。」

「!?」

砂煙の中から、自分とさほど歳も変わらないであろう青年が出てきた。

「ぺっぺっ、ちょぉ派手にやり過ぎてもーたな。」

砂が口に入ったようで、舌と口の中でざらつく砂を唾とともに吐き出す。

「ひ・・ひと・・・?」

頭が回らない。

恐怖はある。何が起こっているか分からないのもあるが、自分だけが何も知らないまま巻き込まれているという状況が恐ろしくてたまらないのだ。

「な・・・ぁ・・・。」

「お前、これも聞いてないのか!?」

意外そうに淳が尋ねる。

その問いかけに我に返ったような感覚で、秋一は恐怖のほかに不安が爆発した勢いで言った。

「な、んだよ・・・何なんだよ!!全然わかんねぇ!!何も知らっ」

ぴしっ、と短く肌を叩いたとき鳴る音が響いた。

白華は秋一の額に、デコピンを食らわせた音だった。

「びゃ、びゃっ・・・。」

情けなく、打たれた額を押さえながら目を丸くさせて白華をみた。痛みに少しずつ頭が冷めていくのが分かった。

「落ち着けこの馬鹿。龍次・・・理事長からは何も聞いていないんだな?」

目を見開いたまま、縦に小さく頷いた。

「そうか・・・なら仕方あるまい。・・・“雪那”」

秋一が見ている前で、その名を呼ぶと、額に白のような水色のような、雪の深さを秘めた色をした紋章が浮かび上がった。

深祈の額にあるものと酷似している。

「淳、お前は念のため、中に知らせてきてくれ。」

淳は神妙に頷いた。

「深祈、この馬鹿者をしっかり保護していてくれ。」

「はい。」

「お前は・・・じっとしていろ。今怪我をされると面倒だ。」

「あ・・・うん。」

何も知らない秋一は頷くしか術を持たない。

「では行くぞ!」

深祈が、ドームの一部を開き、二人分通れるような大きさにした。

その後姿に、思わずその名を呼んでしまう。

「あ・・・白華・・・!」

しかし、掠れた声では元通り閉じたドームの外にいる白華には届かなかった。

淳が全速力で白華が呼び止めた。

「淳!中の奴らに言っておけ・・・私の客だ、手を出すなよ!!」

「おぉーっやぁっとこ出てきよったな白華ぁっ!!待っとったでぇ〜〜〜!!」

青年はハートを飛ばしまくっている。

それを無視して、白華は制服の下に仕舞っていた水晶の嵌め込まれているプレート型のネックレスを取り出した。

白い光がその水晶を纏い、どうしたことだろう、その水晶が消えた代わりに白華の手の中には、不自然なほど彼女によく似合う細身の剣となったのだ。

フェンシングなどの道具に似ているが、鋭く光るそれは明らかに、スポーツの域などとっくに通り越していた。

ここまでくれば、流石に落ち着きを取り戻した秋一にも分かる。

あの関西弁の青年が(なんだか分からないけど)砂煙を巻き上げるようなことをして、白華はその青年と闘おうというのだろう。

「びゃ・・・っか・・・。」

呟う独り言のようなそれは密閉したドームによく響き、深祈の耳にも届いた。

「大丈夫です・・・白華さんは、私たちの中でも一番、強い人ですから。」

深祈は安心させるために言ったようだが、秋一は何も知らない。

どうして、白華が平然と人を殺せるような武器を思って闘おうとしているのか何も知らない。

「ねぇ・・・深祈ちゃん・・・俺さ、何にも知らないんだ・・・全然、知らねーんだよ・・・。」

「えっ。」

自分でも声が震えているのが痛いほどに感じた。

深祈は白華が「知らないんだな」と確認していたのを思い出した。

「梅ちゃんささんや理事長からは何も聞いてないんですよね・・・。なら、尚更、私の口から言うべきじゃないと思うんですが・・・場合が場合ですよね。」

ドームの外で繰り広げられている闘いから目を逸らし、秋一は深祈の後姿を見た。

 

 

「これが・・・私たちK部の本当の活動なんです。」