私立草薙学園高等部の敷地は広い。
流石、頏玖グループがバックボーンなだけはあってか、校舎も校庭も広くて、授業関連の器具も多かった。
A,B棟に分かれた校舎の1〜4階をはじめに案内し、体育館は1階がプールで上がフロアだとか、部活棟を巡りつつ、最後に生徒寮を見に来ていた。
淳が簡単に説明してくれている。
「左からあのクリーム色っぽいのが槐、茶色が椿、林から頭だしてる白いのが葵だ。」
寮の入り口にそれぞれの花が看板のような板に描かれていたので、まぁ間違えることはないだろう。
そもそも自分の寮ではないし、と秋一は椿寮を見上げた。大きかった。
案内役のほとんどは淳が口で説明し、それについて稀に白華が補足するという形で進められた。
「大体、頭入ったか?」
「いや、広すぎてよく・・・体で覚えるさ。でもサンキューな。」
2人に礼を言おうと思って、ちょっと迷った。
白華のこと、なんて呼ぼう、と。
昔はずっと白ちゃんだったのだが、今更そんな呼び方をするのは憚られるし、呼んだら呼んだで殺されそうだ。
「なら、戻るぞ。」
「ああ。」
言わずもがな、柊寮である。
呆けていると置いて行かれそうだったので、白華を先頭に淳の隣に並んだ。
寮への道を戻り、校舎へと戻ってきた。
そして、校舎裏の憩いの広場を越え、林に中に木で構成された階段が丘の向こうへと続いていた。
丘、といってもこの揺ヶ丘は坂が急で山に近いものがあり、だが山と呼ぶには小さかった。市内も、坂が多いのが面倒かつ特徴的だった。
昔は立派なお山だったそうだ。
その階段を登って通路を通って最後にまた階段を下ったあと、整えられた広場に出た。
校舎の反対側に位置する柊寮がそこにはあった。先ほど見た一般生徒用の寮と比べると随分こじんまりとしている。
「ここが柊寮。しばらくはここが家だと思え。寮母のような二人がいるが気にするな。」
白華が説明し、寮へと向かおうとしたそのとき。
「白華さーん!淳さーん!」
白華と淳を呼ぶ可愛らしい声が耳に届いた。振り返るとこちらへと走ってくる人がいた。
青髪のセーラー服。中等部の子かな、と思った。
階段を下りて右に見える更なる階段から登ってきたらしい。
「今、お帰りですか?」
「あぁ、今来たところだ。」
あからさまに柔らかい表情で、その青髪の少女に白華は話しかけた。
なんとなく、複雑。
広場の向こう側から結構なスピードで走ってきたのに、息ひとつ乱していないところを見るとこの子もK部の一員なのだろうか。
「遅かったんだな。」
「はい。委員会が忙しくって・・・。あの、こちらの方は?」
「朝にメールしたろう。最後のひとりだ。」
青髪の少女は、「あぁ理事長がこないだ言っていた人ですね!」と手のひらをぽん、と合わせた。
「初めまして。私は中等部3年E組の洲賀 深祈です。寮は白華さんと同室なんです。これからよろしくお願いしますね。」
深祈は屈託なく笑って見せた。笑顔がかわいい、丁寧な子だな、と好感を持った。
「こちらこそ、初めまして。赤羽 秋一です。深祈ちゃんでいいかな?」
「はい。私も秋一さんとお呼びしますね。」
寮の手前にほのぼのとした空気が流れた。
秋一は心の中で、年下の友達もできたし、よしOK!俺の高校生活順調じゃーん、とガッツポーズをしていた。
実態の掴めない、しかも命にかかわるというK部への強制入部を除けば、アイドル集団とお近づきになれるし、みんな、いい人っぽいし、ずっと再会したいと思っていた幼馴染にも会えるし・・・俺、今日はすごくツイてるのかも。
そう思うと自然と笑顔になった。
あとは、理事長にいろいろ聞いておかなきゃな。
だが、次の瞬間、その笑顔は消える。
ドォオオオ――――――――――――――――――――ン!!!ドォン!!ドォン!!
「うわぁっ!?」
広場に巨大な砂煙が舞う。
反射的に目を閉じて、自分を守るように腕を顔の前に上げた。
何か大きな音がして、それに続くようにさらに大きな音が2発ぐらいしたような・・・。
いいいいい一体、何だよ!?
砂煙が顔に当たらなくなったので、恐る恐る薄っすらと目を開けた。
あんな量の砂が舞い上がったというのに、止むにしてはあまりに早すぎる気がしたからだ。
「!!」
そして、目の前の光景に言葉を失う。
目の前には深祈がいた。
鞄を足元に置き、両手を重ねながら前に突き出していた。
淳と白華も秋一の傍にいて、その中にいた。
4人は何か青いドームに守られ、砂煙を浴びないように囲んでいた。
―――・・・・・・これは、水?
青いものの正体は、秋一も普段目にしているどこにでもある水だった。
そして、なぜその水が自分たちを守っている?ついでに言うと、その水は深祈の突き出された両手から出ているように見えたのだ。
錯覚かと思った。
だが普通の“水”はなんの道具もなしに、ドームを形成したりはしない。
一体、何が起こったんだ・・・?