だった、とわざわざ過去形にするのには意味がある。
白華は6年前に、忽然と秋一の前から姿を消してしまったのだ。
性格には、両親さえも行方不明で一家で失踪、と形で秋一はひとり取り残された。
6年ぶりの再会だ。
あの頃から、白華特有の儚いイメージは変わっていない。
「そうだよな・・・6年経つんだもんな。変わるよな、普通。」
「当たり前だ。現に名前を聞くまでお互いわからなかった。」
「元気そうだね。また会えてよかったよ。」
「・・・ふん。」
秋一の言葉に、白華は顔をあさっての方向に向けた。
あれ?嬉しいとか思ったの俺だけか?
当時はお互いのことしか見れないぐらい、大切な相手だったのに。
確かに白華は変わった。綺麗になった、という外見的な変化も大きいが、昔見た優しい表情が微塵も残らず消えていた。
寂しい、と思う俺は正常だよな?
「なになに〜〜?遂に白華の秘められし過去を握る人物のとーじょーぅってわけ?」
「梅子、からかうな。」
「はいはい。」
梅子はころころと笑った。
「じゃあ、秋一くん。積もる話は後にして、自己紹介はこんなもんでいいかしら?」
「あっ、はい。」
「それじゃ、K部について簡単に説明させてもらうわね。」
食べ終えた小さな弁当箱を包みながら梅子は言った。
「食べながらで構わないわ。理事長からなんっっにも聞いてないのね?」
「まっっったく、聞いてません。」
力をこめて尋ねた梅子に自分も力を入れて返した。実際、本当に聞いてないし。
「うーん、じゃあどこまで説明すればいいかしらね?」
「私に聞くな。部長権限はお前にあるだろう。・・・大雑把で十分じゃないのか。」
そーよねっ、と人差し指を立てて梅子は嬉しそうに言った。
ホント、テンション高そうな人だ。
「私たちK部はね、君を含めて全部で8人なのよ。残りの3人は、中等部の3年生子よ。寮で会うと思うわ。顧問は頏玖理事長が直々に面倒を見てくれてるわ。主な部活動内容は理事長から聞いてないんじゃ、私の口からはまだ言えないの。」
「はぁ。」
「ここまでは大丈夫ね?学校側への面目として、運動部の助っ人とかいろんなことやってる。単純に言えば、ボランティアとかよろず的な部活動、ってことになってるわ。たまに生徒会手伝ったりもするし。体育祭とか文化祭とかはすっごい忙しいから覚悟しといてね。で、生徒たちからは、顔良し、運動良し、何でもありの集団ってことでKicky部、かっこいい部なんてこと言われてるからK部。ホントは違うけどね。朝、大変だったでしょ?」
朝というか昼もだったが。秋一は真剣に頷いた。
「まっ、ある程度は相手してあげてちょーだい。そういう契約だし。こんなもんかなぁ。何か質問はある?」
梅子は身振り手振り説明してくれた。実にわかりやすくなぜ自分が追われるような羽目になったのかよーく分かった。
だがしかし。肝心なことは何も分かっていない。
「あの、それはあくまでもオマケ的な活動なんですよね?それが気になるんですけど・・・。」
気にならないほうがおかしいだろう。梅子は秋一の言い分を理解して肩をすくめた。
「ん〜、こればっかりは部長の私でも勝手するわけにいかないのよ。」
梅子はさらりとこう言った。
「君の命に関わることだからね。」
「・・・・・・え。」
い、命!?命ってあれですか?なくなると死んでしまう部類に入るあれですか?え?
と、尋ねようとしたところ昼休み終了5分前を告げるチャイムが学校敷地内に響き渡った。
また後でね、手まで振ってくれたのはいいが唐突にでてきた『命』という単語が気になってしょうがなかった。
そのこと以外は、つまりK部とは生徒間の間で顔良し、運動良しのアイドル集団なのだと結論した。
しかし、ならばなぜ自分なんかがそのK部に入らなければならないのだ?余計に気になることに気付いてしまった。
運動は自信があるといえばある。
小・中では上・同・下級生と含め、秋一に足で敵うものなどいなかった。中学校1年のときは野球で4番、2年は柔道で2段をとり、3年で剣道1段をとった。
転々と運動部を渡り歩いてみても、物足りなくて辞めていた。(そのときの部員の引き止め様といったら)
それはいいとして、秋一は自他共に認める、童顔の持ち主だ。
かなりコンプレックスだったりする。高校生にもなって童顔で男ってちょっと情けない。
小学校の卒業写真を見ながら、変化のない面立ちにため息をついたことが何度あったことだろう。
考えが脱線していることに気付かず、秋一は考察を始めた。
梅子は、スカートの下になぜかジャージと履いているという特徴があったが、どう見ても脚は長くて、姉御肌というか面倒見がよさそう美人だった。
由貴は、オレンジの髪が果てしない違和感を呼ぶが端正な顔立ちをしていたし、淳は自分の目から見てもかっこいい方だと思う。
そして何より、6年前とは比べ物にならないほど、白華はとても綺麗になっていた。
お世辞とかそんなの失礼で言えないぐらい、歩けば誰もが振り返り、感嘆の溜息を漏らすような美貌を持っていた。
白く透き通った肌や、細い指、長い睫毛も6年前とすっかり変わっている。
白銀の髪が揺れるとどことなくいい匂いが・・・って何考えてんだ、俺!
6限の数学、白華を凝視していた目を逸らし、黒板の文字数字を写す。
しかし、自分と比べると他のK部員って・・・と軽く溜息。
童顔でちょっと運動ができるぐらいでさ・・・と自嘲気味に笑う。もう笑うしかない。
だが、秋一に自覚はないものの、秋一こそK部に入るに相応しいと言えた。
K部とは、ある特殊な能力を持つものだけがが入れる部活だということを、秋一はまだ知らない。
「おい、行くぞ。」
「・・・あ、ごめん。」
HRが終わり、ぼーっとしていた秋一に淳が声をかけた。
あぁ、そうだ、校舎を案内してもらうんだった、と不機嫌そうに(いや無表情に慣れてない秋一がそう感じるだけだが)腕を組んで淳の隣に立つ白華を見つけて思い出す。
「寮に荷物、置いてからにするか?」
「んー、このままでいいか?」
「あぁ、構わねぇぜ。だろ?」
「あぁ。」
白華に同意を求めた淳が顔だけを向けて、白華も短く返事をする。
秋一は慌てて荷物をまとめ、ふたりの後をついていった。
・・・・・・・ついでだが、このふたりは並んで歩いているととてつもなく絵になる。いわゆる『お似合い』というやつだ。
今日1日いるだけでも、そう思う。美男美女カップルというやつだ。
「・・・なぁ、お前らってさ・・・付き合ってたりする?」
前を歩いていた白華と淳は振り返り、
「はぁ?」
と、こいつ馬鹿かといわんばかりの表情を作った。
「いや、なんかさ・・・。」
ははは、と自分の発言を濁すように頭を掻く。
しまった、またやってしまった。秋一の悪い癖だった。
思ったことをすぐに口に出してしまう、という世にも間抜けな癖を持っていて、言わないで後悔するよりは・・・とは思うが、いって良いこと悪いことがあることぐらい自分にも分かっている。
だが今のはおそらく『悪いこと』だ。だから、しまった。なのだ。
自分のバカ正直さを呪った。
「・・・正直なことは悪いことではないが、馬鹿な真似はやめろ。いつか後悔するぞ。」
「いや、もうしてる・・・。」
苦笑い。
そんな姿の秋一を見て、淳と白華ははぁぁ、と溜息。
「寮とクラスと部活が一緒なだけだって。」
「置いていくぞ。」
淳が肩に手を置いて弁明する。あ、そうなんだ?と顔を上げたら、既に白華はもう歩き出していた。
ふぅん、とどこか機嫌のよくなった秋一は、
「じゃ、どこから行く?」
と、笑顔で言った。
このときは、まさか戦友になるとは思ってもみなかったのに。