「!つ、月城さん・・・。」
そこにいたのは、第1印象が冷たいのに懐かしいという、誠に微妙な結果を抱いた白銀の美少女だった。
“豆乳ココア”と書かれたパックジュースのストローを口に含みながら、秋一を冷めた瞳で見ている。(激しいギャップを感じた。)
「あ、えと・・・ありがとな、月城さん。」
「礼を言われる筋合いはない。私たちもお前を探していたからな。」
と言いつつも、頬が薄桃色に染まるのを止められないようだった。
何だ、ちゃんと可愛いところもあるんじゃんか、とほっとするように秋一は微笑んだ。
「・・・何がおかしい。」
「いや、別に?」
にこっ、と秋一が笑いかけたのに対し、不愉快そうに白華は眉を寄せた。
しかし、こんなことをしている場合ではない、とポケットからケータイを取り出して時間を確認する。
デジタル表示の時計が13時2分を示していた。昼休みはまだ、十分ある。
「ついてこい。」
ケータイを仕舞いながら、白華は秋一に一言そういって、近くの階段を登り始めた。
見ると手に水色の四角い包みを持っているので、彼女もまだ昼食をとっていないのだろう。
「なぁ、どこ行くんだ?」
「屋上だ。」
「屋上?生徒は立ち入り禁止なんじゃ・・・。」
「K部は別だ。」
「・・・・・・なぁ、俺らさ、どっかで会ったこと、ない?」
屋上への扉の一歩手前、少々踊り場になっているそこで白華は立ち止まり、ゆっくり秋一に振り返った。
「・・・私も、名前を聞くまではわからなかった。」
「へ?」
「背丈は伸びたようだが、よくよく見れば面持ちもさして変わらないな。童顔というのだったか?」
「ほっとけ!って、やっぱ会ったことあるんだな。」
白華の言葉に確信を持つが、白華は黙ってしまう。躊躇いや戸惑いとはまた違う複雑そうな色を瞳に浮かべた。
「・・・・・・お前も、私を知っているさ。」
しかし、白華はそれだけを言って屋上へと続く扉に向き直った。
その瞳は哀しみのようでもあったが、思い出せないくらい昔の知り合いと再開した今日の今日では、秋一に白華の瞳の意味を読むことは適わなかった。
白華はケータイを収納したのとは逆のポケットから鍵を取り出した。
銀色に光るリングに3つの鍵がついていて、1つはプレート、1つは羽根、1つは王冠のキーホルダーがついていた。
白華は、その中で王冠の鍵を選ぶと、扉の鍵穴に慣れた手つきで差し込んだ。
重苦しい音を立てて、屋上への扉が開かれた。
「見つけたぞ。」
「さっすが!じゃ、みんなでお昼しましょ。」
長い三つ編みを体の前に垂らした女性が、白華よりも高いソプラノの声で言った。」
屋上の中心あたりに3人の男女が座っていた。
1人は淳で、1人は先ほどの女性、もう1人は髪をオレンジに染めた少年だった。
白華がその集団に向かったので、急いで扉を閉めてその後を追った。
髪の長い女性の隣に白華は腰を下降ろした。
所在なさげに困っていると髪の長い女性が「座ってちょうだい。」と促したので、白華と淳の間に座らせてもらった。
「君が噂の最後のひとりね・・・。理事長から私たちのことは聞いてる?」
「いえ、全く。K部っていう存在すら知りませんでしたよ。」
「そっかー、じゃぁ大変だったわね。簡単に自己紹介でもしましょうか。私は千咲 梅子、3年B組よ。一応、K部の総合部長をやらせてもらってるの。寮は202号室だから何かわからないことがあったら遠慮なく言ってね!よろしくね。」
あと、梅ちゃんて呼んで!と付け足して梅子は朗らかに笑った。
いいひとっぽいな、と頭を下げて「よろしくおねがいします。」と返した。
「じゃあ、次は由貴ね。」
隣で弁当を黙々と食べていたオレンジの髪の少年の方を梅子は叩いた。
「ん、2−Cの宇多乃 由貴。よろしく。」
「あっ、はい。よろしくお願いします。」
不意をつかれた秋一は慌てて頭を下げた。まさか年上だったとは。
女の子のような端正な顔立ちをしているの、頭だけがオレンジ、とやけに不良くさいのが違和感を呼んだ。
「そいえば。アンタたちは自己紹介したの?」
「いやまだだ。」
弁当の卵焼きを飲み込んだ淳が答える。
「じゃあついでにやっときなさいな。」
「・・・湯原 淳だ。改めてよろしくな。」
「こちらこそ。」
箸を止めてそう言った淳にありきたりな返事をして笑って見せた。
「はい、じゃ次シロね。」
「だから犬みたいに呼ぶなと何度言ったらわかるんだ。」
「いーじゃないかわいいんだからさ。」
責め飽きたように白華は梅子にいったが、全く改正するつもりはないようだ。
「・・・月城 白華だ。」
よろしく、と続けるが秋一の耳には入っていなかった。
月城 白華、という目の前の少女のフルネームを聞いた途端、記憶が呼び起こされるのを感じた。眩暈がしそうだ。
彼女は昔から自分を知っていると言った。
それはやはり、記憶の奥底でずっと一緒だった相手と同じなのだろうか。
「え?え・・・ええぇぇぇ――――――――――――――――――――――――――っっっ!!!!」
朝のクラスに負けないぐらいの大きさで秋一は絶叫した。
あの・・・あの、月城・・・びゃくちゃん?
白華はやれやれという顔をした。秋一の反応を予測していたのだろう。
「え、ちょっ、つつ、月城 白華って・・・あの白華!?嘘だろ!?」
「本当だ。昔から知っていると言っただろう。」
「昔、一緒にお風呂に入った!?」
周囲が驚くよりも早く、白華は飲み終えた豆乳ココアのパックを力の限り秋一に投げつけた。
「ぃでっ!」
「どうしてお前は・・・そういうことしか言えないのか・・・?」
怒ってる。めちゃくちゃ怒ってる。(当たり前か。)
周囲の空気が冷たくなってるのもなんだか気のせいじゃない気がする。
「ま、まじで・・・?」
「何度も言わせるな。」
「・・・そっか・・・。」
ふたりは幼馴染だった。