思い返してみても、まるで思い当たる要素などなかった。

この発言に、白華と淳も驚きを隠せないようだった。無理もない。

何も隠そう、このふたりは秋一が入る予定の柊寮の寮生なのだから。

・・・しかし、白華はどうやらその他の意味でも驚いているようだった。

「赤羽・・・秋一・・・、柊寮だと?」

彼女にしては珍しく、独り言を呟くほどに。

生徒に対して、草薙学園は4つの寮を持つ。

5年前に新設されたばかりの女子専用の葵寮、男子専用の第1槐寮、第2椿寮。

この3つは、いずれも中高合同であり、男女で丘の高低差がある。高等部の場所から少し下った長い坂の途中に、各々の寮へと通じる道がある。

そして、最後のひとつが彼女らの住まう『柊寮』である。

校舎のまるで反対側に位置する林の中に建ち、入寮者がたったの9人で、秋一を含めても10人にしかならない少数設計で造られたその寮は、とある部活専用のものなのだ。

柊寮に入寮とはイコールその部活にも入部が決まっているということだ。

「お前、K部だったのか・・・。」

「は、はい?」

春野から発せられた単語の意味がわからず、思わず聞き返してしまった。

今、確か、“K部”とか言っただろうか?

秋一の頭の中に数え切れないクエスチョンマークが浮かんだ。

未だにクラスがざわついている中、一番後ろとその斜めにいる白華と淳は神妙な表情で秋一を見ていた。

「(あいつが・・・最後のひとり。)」

同じ考えを浮かべた2人は、顔を見合わせて一言も交わさずに、再び秋一に視線を送った。

そう、秋一は、K部の顧問が必死に探していた最後のひとりなのだ。

白華は一応、と制服の上着、女子にしては珍しいがよく似合う学ランのポケットから彼女の頭髪によく似たシルバーのケータイを取り出した。

『sub:最後のひとり

text:龍次の言っていた最後のひとりが私たちのクラスに転入した。詳しくは寮に帰ってからか?』

短い一文をK部の部長をやっている3年生に送り、マナーモードになっていることを確認して、白華はケータイをポケットに戻した。

そして、睨む様に三度、秋一を見る。

「そうか・・・そういうことなら、湯原、月城。放課後に赤羽を案内してやれよ。」

「・・・はい。」

呼ばれた白華と淳は少し、面倒くさそうな顔をしたが、意志の通った声で返事をした。

先ほどの春野の言葉から察するに、この2人もK部とやらなんだろうな、と秋一は白銀の髪の少女と茶髪の青年と眼を合わせた。

クラスが落ち着き始めた頃、1限の古典教師が教室をのぞいたので、春野から淳の後ろの席を指定された秋一はクラス中の(なんだか痛い)視線を浴びながら、席に着いた。

ふと、白い少女に目を移す。綺麗な貌をしている。

肌も髪も白く、表情は無で冷たい印象を受けるのに、彼女にひどく、既視感を覚えたのだ。

なぜだろう。雪のような冷たさが伝わってくるのに、懐かしい。

「(・・・どっかで会ったことでもあんのかな?後で聞いてみよ。)」

人見知りをしないのも彼の長所である。その性分を活かし、早速、前の席に座る淳に話しかけた。

「なぁなぁ、湯原・・・だっけ?」

「・・・淳でいいさ。俺とお前は寮で同室らしいからな。」

ぶっきらぼうに答える淳に対して、「じゃ、俺も秋一で」と笑顔を見せた。

淳の部屋にしか空きがないことや、今朝秋一の荷物が運び込まれていたことを淳は説明した。

「ま、詳しくは後だ。今はノート取ることに専念しろや。」

後ほどノートを見せてもらう約束をして、淳は前を向いた。

古典教師が会話を続ける秋一たちに視線を送っていることに気付いたからだ。

淳は前に向き直り、遅れてそれに気付いた秋一は、慌てて買ったばかりのノートと教科書を広げた。

満足した古典教師は、「転入生の赤羽くんだね、よろしく」と年相応の皺の深い笑顔を寄こした。

なんと答えてよいかわからず、「どうも」と生返事で返してしまった。

黒板に白いチョークの音が滑り、その音が響く。

なにやってんのか全然わかんねぇ、とお手上げの秋一は淳に何ページ分を空ければいいのか尋ね、とにかくノートに写すとこに専念しようと思った。

不意に、真横の列を見渡す。

間に2人の男子生徒挟んだ先に、白華がいるのだ

目が合った。

一瞬だけだった。

合った瞬間にふいっ、と顔を背かれ、白華は既に黒板に書かれた白い文字を黒いシンプルなシャーペンで綴っている。

「(な、何だよーっ!カンジ悪いなぁ・・・)」

不満そうに眉を八の字にして、秋一もノートを取った。

全く、これから同じ部活(らしい)だというのに、大丈夫だろうか・・・、と少しだけ不安になった。

 

 

「はぁっ、はぁっ・・・ふうぅー」

昼休み、秋一は追われていた。

噂の転入生が、まさかK部だとは誰も考えもしなかったのだろう。

故に、皆、必死だった。だが、何も知らず、何も聞かされいない秋一にとってみれば、迷惑の他でない。

何なんだ一体・・・!!

ぼやかずにはいられない。

朝のうちは、興味を持って訪れた女子生徒が、教室に集まってきて秋一の席の周辺に集まる程度だったのだが。

昼休みになり、白華と淳にいろいろ尋ねようと思い、教室を出た2人に付いていこうと後を追いかけようとしたのだが教室を出る前に野次馬に捕まってしまった。

しかも今度は女子生徒だけでなく、なんでかは知らないが体育会系の男子生徒も多かった。

これじゃ落ち着いて昼飯も食えやしない・・・!と朝のうちに買っておいたパンとパックジュースの袋を持って自慢の脚で、猛ダッシュ。

つまり逃げてきたのだ。

その自慢の脚力を持ってしても、いかんせん、ここは転入5時間しか経たない校舎だ。しかも私立。広い。

駆け巡るように走ったが、敵(?)の方が上手らしく撒くに撒けなかったところ、誰かに腕を引っ張られて助かったのである。

「ふう。」

追い回す集団の声が十分、遠ざかったのを聴覚で確認して、助けてくれた人物に礼を言おう、と振り返ったそこにいたのはなんと意外な人物だった。