そして、道行く

 

おれは、ひとりで生きてきた。
物心が付く頃には孤児院にいた。
6歳になる前に、今の義父に引き取られた。(義母に似た瞳の色が気に入ったらしい)
世間的に言えば、今の義父母は「大」のつく「金持ち」らしい。
だが、不運にも子供を授からなかったのでおれを選んだのだろう。
 
ようやく、義父さん、義母さんと気兼ねなく呼べるようになった小学4年生、10歳の時だ。
義父さんに日本行きの仕事が決まった。
いつもは、義父さんだけが行くのだが、日本に興味があった義母さんとおれは一緒に行くことにした。
義母さんと共に、京都をはじめとする日本の名所を堪能し、義母さんは義父さんの仕事に付き添うというので、おれはひとりで町を歩くことにしたんだ。
 
このとき、その町ではペガサス・J・クロフォードがデザインした「デュエルモンスターズ」が流行っていた。
至るところで、そのモンスターがソリットビジョンとして具現化しているシーンを見た。
「・・・、・・・」
そういえば、と持ってきていたリュックの中にデュエルモンスターズのカードが入っていることを思い出した。
義父さんが「今、こういうのが流行しているんだろ?」と買ってきたものだ。
もらったパックを開けて、カードをひとまとめにしただけのただのカードの塊だ。
カードの絵柄を1枚1枚見たことなんてないし、もちろんルールなんて微塵も知らない。
「なぁなぁ!」
突然、後ろから声をかけられた。
「それ、デュエルモンスターズのカードだろ?お前もデュエルやんのか!?」
茶髪の男の子だ。背丈もそう変わらない。おれとそんなに歳も変わらないんじゃないだろうか。
「いや、おれ、デュエルとかわかんないし」
「え?じゃあ、何でそんなにいっぱいカード持ってんだ?」
「これは義父さんが、買ってくれただけで・・・」
「ふぅん・・・なぁ、オレに見してくれよ!」
目を輝かせておれの(特に大切に所有しているわけでもないが)カードを見つめる少年に、断る理由もなかった。
欲しいならあげてもよかったし、おれは素直に少年の手にカードを渡した。
「さんきゅー!」
少年は、「おっ、これレアカードじゃん!」と、こちらにも喜びが伝わりそうなぐらい、楽しげにカードを見ていた。
「・・・なぁ、これお前のデッキ?」
「デッキ・・・?買ってもらったパックのカードをひとまとめにしただけだよ」
「なぁーんだ、やっぱしな!だってモンスターと魔法と罠のバランス悪ィもんなっ。でもさ、こんないいカード持ってんのもったいねぇし・・・」
「なら」
「あっ!」
君にあげるよ、というつもりだったのだが、少年が急に大きな声を出したのでタイミングが狂ってしまった。
おれの(特に大切に所有しているわけでもないが)カードを握り締めながら、言った。
「おまえさ、時間あるか!?」
「あ、るけど?」
少年は何の躊躇いもなく、おれの手を握った。
「オレが手伝うからさ、一緒にデッキつくろーぜ!」
そんでデュエルしよっ!と、まだそのデュエルをしているわけでもないのに楽しそうな少年の笑顔に純粋、という単語が過った。
ちなみに、誰かと手を繋ぐなんてこと、孤児院のときでさえないことだった。
まして、現在のおれの家族の状態を見れば、おれの手を握って走るなんて事はだれもするはずが無かった。
でも、この少年はおれのことを何も知らなくて。だから、こんな風に接してくれている。
・・・先ほどのように、断る理由もなかったおれは、手を引かれるままに少年と走った。
 
たどり着いたところは、なかなか大規模なゲームショップだった。
どうやら、ここでデュエルモンスターズのパックが売られているらしい。
(ついでに言うと、少年が愛用している場所だそうだ。パックの入荷が早いとか何とか。無論、今の状況に全く関係の無い話だ)
少年に勧められたり、ぱっと目に付いたパックを数種類買い、近場の公園へと再び走り出した。
少年は、自分のデッキと一緒に買ったパックを使い、身振り手振りでデュエルモンスターズの楽しさを熱弁してくれた。
カードをドローする瞬間のわくわくがたまんねぇ、だとか強いモンスターを自分のモンスターで倒したときの達成感など。
おれはそのデュエルモンスターズに、確実に惹かれていた。
簡単にルールを教わりながら、パックを開けておれが持っていたカードと照らし合わせる。
少年はよほどこのデュエルを気に入っているらしく、おれのデッキ構成に対して熱心にアドバイスをくれた。
星8つのモンスターは強くてかっこいい。でも召喚に手間がかかる効果モンスターだ。
「それ、入れんのか?」
自分のデッキを再構成していたはずの少年が、いきなり背中にくっついてきた。暖かい。
おれの背後から、少年はその星8つのモンスターを覘いた。
「デッキは何か、テーマを持って作るとか、召喚したいモンスターとかに合わせて作るのが近道だって伝説のデュエリストも言ってたぞ。だからオレは大好きなHEROデッキ使ってんだ!」
少年は誇らしげにカードを見せてきた。
 
どうしてだろう。
こんなに、胸が高鳴るのは。
 
日が傾き、空が青から赤に変わりつつある頃、おれの生まれて始めてのデッキができた。
「やったー!!」
もちろん、おれは喜んだ。
そして、自分のことのように少年も喜んでくれた。
それも、嬉しかった。
「よっし!じゃあ早速デュエルしよーぜ!」
返事をしようとした瞬間、おれの携帯電話の着信音がけたたましく響いた。
義母さんからの、催促の電話だった。
これからだというのに!
おれはしぶしぶ少年に、親からの電話だということを伝えた。
「帰んのか?まだデュエルしてないのに!」
寂しそうな顔で尋ねてくるのはきっと、少年もおれを同じ気持ちだからだと思う。
 
そう、デッキができたらデュエルするって約束したんだ。
帰りたく、ない。もっと一緒にいたい。
 
これほど強く、誰かと共にいたいと願ったのは初めてかもしれない。
その願いを口にしようとした瞬間、おれは少年を同じ目線からずいぶん高くなった。
「お迎えにあがりました」
義母さんの使いだ。察した頃にはもう、黒塗りの車に乗せられていた。
慌てて窓を開けると、茶髪の少年はおれの方を見て呆然としていた。
何が起こったのか、わからないのだろう。
何かを、何を言葉にしようか迷った結果、
「いつか、デュエルを!」
それしか言えなかった。
名前すら、お互い知らないというのに。
顔も知らない親からもらったヨハンの名も、義父母からもらったアンデルセンの銘も少年に教えることはできなかった。
なのに。
「おうっ、またな〜!」
さも当然のように、また会えるかのように、少年はおれに手を振った。
ああ、そうだ。また会えるんだ。
おれたちを繋ぐデュエルがある限り、おれたちはまた会えるんだと直感した。
おれは少年がみえなくなるまで、窓から顔を出していたし、少年もおれが見えなくなるまで、手を振ってくれた。
 
 
「ヨハン?」
「んぁ?」
お前、寝言けっこー激しいのな、と十代は木陰で眠りこけていたヨハンに素直な意見を述べた。
「・・・俺、なんつってた?」
「デッキがどうのとか、楽しいデュエルだとか・・・はははっヨハンは夢でもデュエルしてんだな」
デュエル馬鹿の十代に言われるとなんか癪だな、と思ったがヨハンは口には出さなかった。
だって、とても良い夢を見たんだ。
懐かしい思いが胸に満ち、自然と笑顔になった。
傍らにルビーが自分に寄り添って寝ていた。
精霊が見えたのっていつ頃だったっけ?確かデュエルを始めた頃だ。
そう、自分がデュエルに興味を持ったのは・・・―――――
「な、なんだよ」
凝視され続けることに痺れを切らした十代が文句を垂れる。
「・・・別に」
あの少年はとても・・・とても十代に似ていたのだ。
 
 
 
 
妄想の産物いえー。(逝け
 
07,02,26